2012/12/29

[Travel Writing] 年末の雪の静かな宿場町

2012年は、色々な意味で変化の年だった。

これまでコンパクト・デジカメを携え、方々に回ったものの、撮影する対象は綺麗と思うだけで記録の対象とでしか見ていなかった。それが、Google+というSNSにアップされる写真の数々に触発され、ただの記録ではなく、作品としての価値を見出したいと考えるようになった。
2月にミラーレス一眼を購入し、12月に一眼レフを購入した。1年の間に、カメラにこれだけ、それも自分のために投資したことは無い。加えて、Google+に加入して初めてオフ会やPhotowalkにも参加した。今まで見ることすらなかった、街中の何気ない景色や小物、ほんの些細な出来事。それを写真に収める動きをした。写真を撮ることも面白さの幅を徐々に広めた反面、その幅が自分の中で収まりきれない、まとまりきれない部分も出てきている。
だが、とにかくカメラを色々なものに向けなければ、自分が何が好きで、何に夢中になって、何を面白いと思うのかが分からない。旅にしても写真にしても、面白いと思ったものの、どこか冷めた目で見ていたことも確かである。夢中になれるものを探す一つの契機になれるのだろうか。まだまだ未知数な部分が多い。

加えて、7月にレーシックの手術を行った。今住んでいるところの契約更改を含め、今年1年は色々な動きをしたし、そしてお金も恐ろしく使った年でもある。せめて、貯金を崩すところまではいかなかったものの、全く貯金をしなかったことは確かである。 (´∀`;)
そんな大きな変化が伴ったからこそ、年末であるこの時期にたまった疲れは大きい。でも、決して悪い気分ではない。むしろ「あー、今年一年やりつくしたなぁ!」という、一種の達成感にも似た疲れだ。まだまだやりたいことは数多くあるけれど、面白い一年だったと思う。
そんな一年の疲れを癒すために、日帰り(疲れを癒すのに日帰りというのもないかと思うが…)で旅をした。行先は、長野県塩尻市にある、奈良井宿だ。

奈良井宿散策 - 一奈良井宿散策 - 二

中山道の宿場町で、現在も重要伝統的建造物群保存地区として、当時の町並みが保存されている。『宿場』町という場所柄、かつては旅館としての建物が多く存在していたと思うが、今はそれはあまりなく、土産物店や喫茶店、蕎麦などの軽食店として軒を連ねているところが多い。その土産物も、木工や漆器が多く、特にしゃもじや櫛等、漆器に見られるような精緻で美しい絵柄は無く、素朴ではあるものの、寒い地域の中にほんの少しの温かさを感じられる。

ただ、晴れ渡っているとはいえ、雪が積もり、つんざくような空気があたりを張り詰めれば、歩き続けてもいやでも身体は冷えてくる。腹ごしらえに、この地域ならではの『すんきそば』をいただくことにした。
かぶ菜を乳酸発酵させた、木曽地方独特の食品『すんき漬け』を用いた蕎麦だ。発酵したかぶ菜の酸っぱい味が、食欲をそそる。年末ということもあって、客はほとんどおらず、店のおかみさんのご厚意もあり、少々お大盛りをいただいた。が、あまりに量が多いと、すんきのすっぱさが少しくどく感じてしまったのは言うまでもない… (´д`)


雪の太鼓橋鎮神社

奈良井宿は温泉地ではないが、奈良井宿から少し歩いたところに、『ならい荘』という宿泊施設があり、そこに奈良井宿唯一の温泉がある。ここも、年末というだけあって、宿泊者の気配が全くと言っていいほどなかった。しかし、施設そのものは開いていたので、宿のご主人に頼んで、温泉に入らせてもらった。人の気配がなかったのに扉が開いていたし、そもそも営業をしていたのか気がかりだったが…
また、人がいなかったこともあって、温泉のお湯もあまり張っていなかったらしい。僕の来訪で急遽湯を張ってくれたようだ。特に予約をしているわけでもなかったのに、ありがたい。 (´∀`)

温泉に入った後、ならい荘の主人と少し雑談で話をした。この日の前日、松本~塩尻地方ではかなりの雪が降った。長野は、スキー場が多数あることから、全域が冬になると雪に覆われるように思われるが、実際のところは北アルプスや諏訪地方に集中するも、松本や南側の平野では、そんなに雪は降らない。そんな中でも、20cm超の雪が積もるのは比較的珍しいことであるという。
事実、僕も雪を目当てに奈良井宿に来たわけではないが、奇しくも雪化粧で、且つ青空の下の宿場町散策が出来たのは、幸運に恵まれたと言っていい。嬉しい予想外である。
まぁ、年末と言うこともあって、いくつかの施設は年末年始休業に入っていた。そこが少々心残りかもしれない。夏の、大いに人が賑わう時期に、また足を運べたらいいと思っている。



奈良井宿 (Narai-juku)
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2012/12/17

[Review] 007 スカイフォール

007シリーズ23作目にして、ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じる3作目の作品。
まだまだどこかに不完全さを残すも、それが冷酷の中に人間の温かみを持つ『人間・ジェームズ・ボンド』がスクリーンに現れます。『カジノ・ロワイヤル』では、冷酷を装った熱血人間で、徐々に任務をこなすにつれて冷酷さを芯の深いところまで身に着けていくのですが…
ダニエル・クレイグが演じるならではのジェームズ・ボンド、というところでしょうか。

『007』シリーズと言えば、イギリス発のアクション映画の金字塔宜しく、世界中で愛される作品となっていますが、元々この作品は、20世紀半ばの冷戦時代から続く作品。映画化され、ショーン・コネリーが演じる時は、それこそ最新機器や車が勢ぞろい、といったところですが、今ではほとんどが見慣れたものになっています。
それは、映画の中でも『現実さながら』の様子として表現され、兵器開発班のQが言うように、「ミッションはパジャマ姿のままモニタの前で行うことが出来る」ように。それ故、危険な目に晒されるエージェントの存在が時代遅れと称され、MI6、及びそのボスであるMは、時代遅れの対象として白眼視される。

しかし、実際のところ、最後の最後は人間の身体と頭で勝負をせざるを得ない。Qがどんなに複雑で広範囲をカバーするシステムを構築したとしても、それを凌駕する天才的な頭脳を持つハッカーが現れれば、元も子もない。これが、のちにMI6を危機に陥れることになります。
しかも、今回対峙する敵は、世界を闇に陥れるような凶悪犯でも、人間社会を腐敗させるシンジケートでもなく、MI6を、ひいてはM個人に対する攻撃。かつてのMI6エージェントによる報復。計画に計画を練り、たとえ捕まっても、その逃げ口と周囲を混乱させるための準備は周到に用意する。やはり、テクノロジーは人間の手足の延長戦に過ぎず、人間の心と頭と身体が、問題を解決させるための武器なのだと改めて思わされます。
何せ、本作のクライマックスの舞台は、ジェームズ・ボンドの出身地であり、テクノロジーとは全くの無縁の『スカイフォール』。周囲に何があるのかを熟知し、それを行使しながらサバイバルさながらの戦いを繰り広げていかなければならないのですから。

本作を経て、ジェームズ・ボンドだけでなく、MI6も変わっていきます。これから成長していくのか、それとも廃退していくのか… 運命の流転は、まだまだ続きます。



2012/12/03

[Review] のぼうの城

天下統一を目論む豊臣秀吉による小田原攻めの一環として、その支城である忍城(埼玉県行田市)を攻め落とさんとする戦いを描いた物語。豊臣勢の総大将は、上地雄輔さんが演じる石田光成、対する忍城の城代は、野村萬斎さんが演じる成田長親。
石田軍約20000人。成田軍約500人。しかも、石田軍は圧倒的な武力・人材・資金を持っている。さらに総大将の石田三成は、生来からの生真面目な性格で、あまり油断するような様子は見られない。何としても自分の功績として討ち取ろうと、作戦を練る。そんな大軍に引けを取らない戦いをしたのだから、その城代はどんな人だろう… と思ったら、だ。

性根からののんびり屋。
政治の辣腕より農民とのおしゃべりと農作業。しかもその農作業ですら、あまりにもドンくさくて農民たちに煙たがれる。
けれど、その天真爛漫な性格は、どこか見る者聞く者に愛着を湧かせ、決して憎めない。領民のことをことを見ている、というより、単なるおしゃべり好き、世話焼き好き、というところでしょうか。それ故、領民は彼をほおっておけない。彼のあだ名は、でくのぼうから来て『のぼう様』。そんな戦い嫌い、日和見ののぼう様が、奮起して豊臣軍と戦うことに。いつもは飄々としていたのぼう様の奮起は、ほおっておけない領民を一揆団結させます。忍城内の武士としては約500人程度なのに、領民を含めると約2000人。それでも、互角に戦えるほどのものではない。彼の取った作戦とは…

原作では大男である成田長親。知人は、イメージとしてウド鈴木さんらしいのですが、僕個人としては、ウド鈴木ではこの作品の主役ははれないなぁ、と… 野村萬斎さんが演じるからこそ、成田長親が成り立ったと思っています。
何と言っても、成田長親の、いざという時の存在感の発揮と、存在感の無さの発揮。能の舞台の経験を幾度と踏んだ彼だからこそ出来る業かもしれません。城代としてその辣腕を振るっていくはずなのに、正木丹波守役を演じた佐藤浩市さん等にイニシアチブを取られている時の存在感の無さ。こういう緩急の効いた演技、好きですね~ ^^

戦いは、やはり水攻めで忍城を攻める石田軍の圧倒的な優勢。狭い忍城の中に、領民を避難させるも、兵糧攻めで苦労を強いられます。しかし、その水攻めを起こすための土手を造ったのは、領地の領民。成田長親としては、彼らの気持ちを掌握しています。一致団結させることで、土手を怖し、水攻めを終わらせます。
しかし、忍城を守り抜くも、主城である小田原城が先に攻め落とされ、豊臣軍の小田原攻めは終わりを告げます。他の支城はことごとく攻め落とされた中で、忍城だけが唯一残った。勝者であった豊臣軍でも、その功績を称えたそうです。そんなお城の物語が、今住んでいるところ近くにある。何だか、誇らしくも思います。 ^^