2013/12/09

[Review] キャプテン・フィリップス

2009年4月に発生した、ソマリア沖で海賊によってアメリカ国籍の貨物船船長が拉致され、救出にあたるまでの実際の事件を追った作品。実際の事件を元にしており、最後はどうなるかの顛末を理解していつつも、『単に事件を描いた』に留まらない、目を向けるべき世界の情勢、このような残酷極まる状況下で、船長は、クルーは、そして海賊は何を思ったか、そんなことを考えさせてくれる力強い作品です。

当然、漫画やファンタジー作品に出てくる海賊ではなく、それぞれが明日をも知れぬ、食える何かを求めるために狡猾な略奪行為を繰り返す海賊たちです。しかし、単なる勧善懲悪ではなく、何故この海賊たちがそういった行為に身を委ねる結果となってしまったのかも見どころです。さらに彼らは、如何にして他人を押しのけて生きていくかだけに強く執着心を持っています。故に、チームワークと言ったものはほぼ皆無。少人数であるという身軽さと、「この略奪計画を遂行しなければ確実に死ぬ」という『確実な死』と隣り合わせになるからこその行動なのでしょう。
そして別の意味での『確実な死』と隣り合わせに、フィリップス船長は晒されてしまった。彼らに比べれば格段に豊かで自由の利く生活とは言え、何人と言うクルーと何億ドルという物資を運ぶ船長である、さらに危険極まりない海域であるソマリアの角を航行する以上、相応の(という言葉ですらも軽々しいくらいの)覚悟を以て仕事に全うしているはず。被害を如何に最小限に食い止めるか、それに対する最善の努力を怠らず全うし、当初は傭兵のように食い扶持を稼ぐためのクルーも、事件が実際に起こればそれに呼応するかのようにそれぞれの役割を全うする。それでも、予想外の事態は必ず起こる。

そんな、それぞれの持つ『尊厳』ための緊迫感が、スクリーンから溢れ出ているように感じました。


この作品で最も印象的だったのが、フィリップス船長が助かった後。アメリカ海軍の作戦により、船長を人質にとった海賊3人は射殺。船長が救助されたと同時に、海賊のリーダーが逮捕されます。海賊と同じ救助艇に人質として乗り込まれ、身動きも出来ない状態、さらに人質として体よく扱われていたはずが、焦りを募らせた海賊によって正に死と隣り合わせになる。
轟く銃声と飛び散る血を浴び、目の前に現れたのは、物言わぬ死体。救助後、彼は淡々とした手続きで身体チェックを施され、無事が確認出来る。が、彼は止めようもない嗚咽が…
その嗚咽は、助かったことによる安堵感なのか。それとも、海賊たちの身の上話を聞き、彼なりに何とかしたい、でも結局助けることは出来ず死という末路でしかなかったことへの後悔なのか。ここは観賞した人の解釈にもよりますが、個人的には、恐らくこの最後の部分が、フィリップス船長の最も心に深く刻まれた『傷』になったのかもしれません。


この作品について。ポール・グリーングラス監督が、「最も危険なことは、生きる目的のない若者に銃を与えることだ」と述べているそうです。解釈によっては、まだまだ裕福な人たちによる上から目線的な意見、本当の意味でのソマリアの実情を知らない発言なのかもしれない。でも、発言の意味やその解釈を、向けるべき意識を向ける前に断じることは極めてナンセンス。未だ解決していない、検証中の事件・事故に対し、責任問題を追及するのと一緒。
彼らの海賊行為の背景は何なのか。海賊を行った彼らを裁いても、その根元を断絶しなければ、また同じことの繰り返し。意見の意味・主義も貴賤はここでは問わないし問う価値も無い。まずは実行し、感じることにこそ意味がある。そんなことを問いかけているようにも思えました。



キャプテン・フィリップス | オフィシャルサイト

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