ここは新潟 弥彦村~新潟市 岩室地区。
一面に田園風景が広がるものの、湯沢や長岡、魚沼に比べて雪が海に近い地方なので、比較的降雪が少ない。加えて、海岸沿いに弥彦山をはじめとする山々が聳え立ち、それらが雪雲を遮ってしまうところも、降雪が少ない要因となっているそうだ。
しかし、今冬は大寒波が日本列島を全国的に覆い、加えて降雪量も例年になく多かったため、弥彦村、岩室地区でも、いつになく雪が積もったのだそうだ。これを見る上では、湯沢や魚沼あたりの降雪量は、比類なきものとなっているだろう。事実、降り積もった雪は人の身長をゆうに超え、そこかしこで交通の妨げになっている。雪の重さで家が潰れてしまったところもあると聞く。
実は、その降雪量が少なかった時に、一度、新潟 岩室地区に足を運んだことがある。雲がほとんどない晴天の冬日。しかし、一面に広がる田園に雪は無く、ちょっと寂しい思いをしたところであった。
今回の旅は、その念願がようやく叶った瞬間でもある。
写真は、『農村景観百選』にも指定されている、新潟市 岩室地区の『夏井のハザ木』である。
ここには、田んぼや日本の農村をこよなく愛した、故・立川談志氏の立て看板があり、談志氏所有の田んぼもあるそうだ。ほとんど同じ高さのハザ木が、ほぼ等間隔に植えられている。秋、稲が実った時に、このハザ木に縄を張り、刈り取った稲を吊るして乾燥させるのに用いる。伝統的な収穫の風景が、ここでは見られるのだ。
その景色も勿論であるが、僕の心を強く揺さぶったのは、一面雪に覆われた景色だ。遠くに見える多宝山。小さく民家が連なるくらいで、それ以外は本当に何もないといってもいいくらいだ。それ以外に、さして施設も娯楽も無いのに。僕もまた、美しい日本の農村の景観に強烈に惹かれた人間の一人なのだろう。そして、今回の旅で、一面雪に覆われた銀世界を見ることで、その念願が叶う。
弥彦神社については、これで3回目。弥彦村に到着したら、まず最初に訪れるべきところだと思う。そして今回は、境内が一面雪化粧になったところを見ることが出来た。
まだ正月の神事が執り行われているだけあって、神社の境内は多くの参拝客で賑わっていた。丁度、弓始神事が執り行われていた。こういった神事に立ち会うことが出来たのも偶然で、いい機会だったと思う。雪の降りしきる中、一矢一矢、魂を込めて矢を射る様を見ると、しばし時を忘れる。
弥彦神社は、裏手の『万葉の道』からロープウェーに乗り、弥彦山の山頂に行くことが出来るが、雪の量が量のため、今回は見送った。
弥彦公園に至っては、既に20cm近く雪が積もっているためか、人は全くと言っていいほどいなかった。聞こえる音は、全くと言っていいほど無い。無音の、銀色の世界。雪を被る木々ですら、色褪せる。まるで水墨画の様な世界。その中で、架け橋の朱色が一際色彩を放っていた。上図の写真も、架け橋の朱色に対して着色した加工を施してはいない。見たままの世界である。
僕は、スキーなどのウィンタースポーツは全くの苦手なのであるが、雪は人一倍好きな方だと思っている。さすがに、雪山登山の経験は皆無なので、冬季の登山は行わないし、今のところは行う予定もない。しかし、雪の中を、ただ歩く。音のない道を、ただ歩く。一面白銀の世界を、ただ歩く。このただ歩くが好きなのだ。自分も、銀世界の一つになったような錯覚を覚える。悴むような寒さも忘れる。
冬になったらしたいこと。銀世界に溶け込む様に、その世界に浸ることなのかもしれない。
夏井のハザ木 (Natsui no Hazagi) | 弥彦神社 (Yahiko Shrine) |
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