2012/07/14

[Travel Writing] 夏の西日本紀行 - 島根編

世界遺産 『石見銀山』     

世界遺産になった今日、山陰の山間にひっそりと眠るように佇む曾ての街並みは、多くの観光客で賑わっています。勿論、京都や日光など、わりとすぐに行けるようなところではありませんので、混雑するような人数の多さではありません。
でも、それくらいの人数が、丁度いいのかもしれません。何せ、そこが世界遺産であろうとなかろうと、文化財である以上、そこは保護し、受け継いでいく必要があるのですから…

勿論、最終的な選択は、人間の手にかかっていますけれどね。守っていくべきか、壊していくべきか。それこそ、人間の、自然や文化に対する姿勢そのものが問われているのだと思います。

大森銀山伝統的重要建造物群保存地区熊谷家住宅

旧河島家渡辺家

石見銀山の派遣は、鎌倉時代の1309年から。しかし、実際に銀山としてその発掘や銀の精製が盛んになったのは、戦国時代になってからと伝えられています。中国地方の大内氏、尼子氏、毛利氏の覇権争いの火種は、やがて日本の天下へと広がり、織田・豊臣・徳川もその勢力争いに参戦することに。最終的に、関ヶ原の戦いにおいて勝利した徳川が、幕領として支配することになります。それも、徳川幕府を開いてすぐ。それほどまでに、この銀山は、国内の流通として、また海外との貿易の材料として、有り余る魅力を放っていたのでしょう。
採掘の手法を改良し、量産していくにつれ、石見も町が形成されていきます。正しく銀が取引されるよう、然るべき奉行や商人が配備され、その賑わいや優雅な暮らしぶりが、町中を歩くと至る所で見受けられます。特に、世界遺産に指定されている熊谷家邸宅では、往年の羽振りの様相が分かる展示品がずらり。酒造の設備は勿論、婦女子の髪飾り(簪や笄等)等の装飾品も展示されており、当時の暮らしぶりが見受けられます。しかし、一部の豪商だけが羽振りを利かせていたわけではなく、通りの家々は、程度の差はあれ、銀山ならではの恩恵を受けていたようですね。
しかも通りは、武家・商家の区域が分かれていたわけではなく、建てられ方の違いはありこそすれ、それぞれが一つの町の中で邸宅を築いていたのだそうです。そういう、町の作り方の不思議さも、石見銀山を歩く上での楽しみかもしれませんね。

龍源寺間歩 - 一龍源寺間歩 - 二

下河原吹屋跡清水谷精錬所跡

そして忘れてはならないのが、銀山から採掘された銀を精製する各遺構です。
石見銀山は、戦国時代から江戸前期にかけてその賑わいの最盛期を迎えますが、次第にその勢いは衰えていきます。その代り、銅の採掘に力を入れ、それは江戸末期にまで至りますが、やはりそれも次第に採掘されなくなり、明治に入り、銀山は次々と閉山されていきます。
往年は500をも超える間歩(坑道)があったものの、今ではそのほとんどが閉鎖されており(水が溜まったり等、危険性があるため)、中に入れるのは片手で数えられる程度。代表的なものは、龍源寺間歩ですね。観光パンフレットなどの写真にも使用されていますが…

しかし、そんな数奇な運命を辿ったとはいえ、当時、世界に流通する銀の3分の1は、日本で採掘されたもの。そのほとんどが石見銀山からの採掘だということですから、極東の島国とはいえ、世界の経済に大きな影響を及ぼしていたことは間違いありません。

ちなみに、間歩の中は結構寒いです。夏場でもそうなのですから、冬はもっと凄いんでしょうね。何せ石見は盆地ですから、夏は暑く冬は寒い。しかも、陽の光が届かない坑道の中なのですから、よほどの寒さなのかもしれません。 ^^;


佐毘売山神社妙正寺

勝源寺羅漢寺

また、同じくこの石見銀山には、遥か昔からこの地を慈しみ、守ってきた神社仏閣が数多くあります。ただ、いずれも規模としては小さく、神主や住職も居たり居なかったり。まるで、歴史に忘れ去られ、打ち捨てられたかのような雰囲気が醸し出されています。
普通なら、取り壊されても誰も気にも留めないような神社・仏閣。しかし、世界遺産に登録されているから、という理由だけで保存されているとは思えないのです。遥か昔から、連綿とこの地を守ってきた存在。神々しさは全くと言っていいほど無いのに、なぜが惹きつけられて止まない魅力、というか、神気のようなものを感じます。派手さ、華美さ、その土地に根付いてきたことによる力を鼓舞する雰囲気は何もない。ただ彼らは、この地を鎮守するという役割を、淡々とこなしているに過ぎない。そしてそれは、これから先も続く。たとえ人が忘れ去っていっても…

その土地を守るということは、単に義務感だけで行えるものではない。時を経て、時を越えて、ただその変化を静かに見続ける。そんな厳かな空気が、石見銀山には満ち溢れています。



石見銀山 (Iwami Ginzan Silver Mine)
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2 件のコメント:

  1. かなりの強行日程を見事にこなされるのには感服です。しかも素敵な写真を沢山。
    ここは、2年前に夫婦で行く予定でした。急に都合が悪くなってから今日まで行きたい場所のままなんです。素敵なブログを拝見し、少しホッとしております。
    しばらくはのんびりと出かけることもできないでしょうが、いつか行くと想います。ゆっくりと散策してみたいです。

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    1. 老人と瀬戸内海 さん。有難うございます!
      日光や京都と違い、人もそれほど多くなく、ゆっくりと散策できます。是非、お越しいただければと思います。 ^^
      本当に森の中にたゆたう遺跡群のような印象です。

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