2012/05/08

[Review] テルマエ・ロマエ

古代ローマ帝国の浴場技師が、現代日本にタイムスリップし、そこで受けたカルチャーショックをコミカルに描いたギャグ漫画『テルマエ・ロマエ』の映画化。
漫画でもそうであるように、この作品の主人公であるルシウスは、一切のギャグ的アクションを演じていません。が、料理漫画やアニメにおける、料理対決時のジャッジが、料理を食べて過剰とも言えるアクションをするのと同じように、ルシウスも現代日本の風呂やそれに関する技術を目の当たりにし、深く感銘を受けます。さらにそのリアクションが、あまりにも過剰すぎるとそれはそれで白けるのですが、生真面目な性格ならではのルシウスの反応、そして通常私たちが何気なしに触れている、日常のありふれたものであるにも関わらず、感激と歓喜に震える姿が、何とも言えぬ笑いを引き出してくれます。

古代ローマ人に比べれば、現代日本人(というよりモンゴロイド)は顔のほりが浅いので、『平たい顔族』と呼んでしまうのはまぁいいとして。そうであるならば、主人公を始め古代ローマ帝国の登場人物たちは、ほりの深いヨーロッパ人を採用するのが一番いい。のですが、これは日本映画ですし、古代ローマ人の登場人物も結構多いもの。全て揃えるのは難しい。というわけで、日本人なのに日本人離れした顔の造形を持つ阿部寛さん、に白羽が立ったのですな。
他にも、アントニヌスに宍戸開さん、ケイオニウスに北村一輝さん、ハドリアヌス帝に市村正親さん、と… という、如何に古代ローマ人と遜色無い配役にするか、というより、『平たい顔族』との対比を如何に深く出すか、というところに注力を置いたような気もするのです。笹野高史さん、神戸浩さん… ってこれはさすがにコテコテすぎるでしょう! ザ・平たい顔族の代表格って感じですがな。いずれにしても、彼らの存在がいるからこそ、日本人が古代ローマ人を演じても、そんなに違和感無く感じられるのかもしれません。 ^^;

それにしても、
リアリティを出すために要所要所でラテン語による会話がなされて、本当に苦労なされたのではと。イタリア語やスペイン語への派生した元の言語であるとは言え、並大抵の努力ではなかったのかな、と勝手に思っています。


物語は、前半部分は原作に対してほぼ忠実に表現しています。一方で、後半部分からオリジナルの物語が展開していきますが、現代日本の浴場の技術を取り入れてしまったばかりに、徐々に歴史の道筋が変わってしまう、それが、いずれローマの未来をも変えてしまう危機に瀕してしまうために、ルシウスと、ヒロインである上戸彩さんが演じる山越真実が奮闘します。そんな中で、お互い、本当にやりたいこと、やりたい道を見つけ、選び、邁進していく、というもの…
まぁ、己の道を見つける王道の物語、という感じですな。そして、歴史を変える、危機を救う、というのは、如何にも仰々しい感じがしますし、何とも戦いを彷彿させるような展開ですが、それはこの作品。やはり解決には『風呂の造営』なのです。 ^^

この物語の主題の1つでもある、『自分の夢、本当にやりたいことを見つける』を主体として観るには物足りない本作。かと言って、原作のように、ルシウスが現代日本に行っては技術を垣間見、戻って古代ローマの浴場に反映させる、ということを繰り返すような物語ですと、どう帰結するのかが分からなくなります。ですので、『自分の夢、本当にやりたいこと』を物語の含みに入れて、起承転結を促す、という意味では、それこそコテコテではありますが、見やすい作品ではあるかな、と思いました。



2012/05/03

[Travel Writing] 大町・安曇野の遅い春

長野の旅は、雨で始まった。

木崎湖 - 一木崎湖 - 二

大町市 木崎湖。仁科三湖の一つで、最も南に位置する。湖周辺には民宿が軒を連ね、また数か所にキャンプ場が配備されている。釣り客も多く、パラグライダーの格好の飛行場所でもある。
残念ながら、僕が行った時は雨だった。加えて風も強く、湖を囲む山々には、霧が立ち込められていた。しかし、散ってしまったのではないかと思った桜が、湖畔にちらほら…
高地ゆえ、5月に入った今でも、こうして密かに咲かせているのだろう。大挙で押し寄せて、これ見よがしに咲き乱れる桜より、見る人はほんの僅かでも、密やかに、ただ佇むままに咲く姿というのも、オツかもしれない。

そして、そんな密やかな環境の通り、勿論雨が降っているから、ということもあるが、湖の周囲は静かそのもの。車と電車の音は、遠くに置き去りにされる。そして、田んぼに鳴り響くカエルの鳴き声。湖に出ている釣客の小舟の音ですら、この静寂の中に掻き消される。日本の原風景ともいうべき景色が、眼前に広がっている。
本当は、小熊山から眼下に広がる木崎湖を眺めようと思ったが、この雨だと足場も悪くなるし移動もままならない。今回は断念した。木崎湖も、海ノ口の北半分のみだし、どうも消化不良。お楽しみは、次にとっておこう。


安曇野へ移動中、雲の切れ間から青空が見え始め、少しずつ晴れてきた。安曇野に着いた時には、雲が多めだったものの概ね晴れ。爽やかな風が流れてくる。陰鬱だった午前中の雨とは対照的に、思いっきり深呼吸したくなるような空気に。しかし当然ながら、歩き続けていくと、暑くなってくるのは言うまでもなく。

遥か北アルプスと春の花々安曇野の里

上着を腰に巻き汗を拭いながら安曇野の街を歩く。眼前に広がる田園風景。まだ田植えには早く、寂しいばかりであるが、この季節ならではの景色も見られる。丁度晴れ渡り、雨が淀んだ空気を洗い流してくれたからか、咲き乱れる遥か先には、冠雪をいただく北アルプスが一望できた。またとない貴重な経験だったと思う。

大自然は、どこの都道府県でも美しいが、その中でも取り分け僕の目を引くのは、長野だ。これまで撮影した写真も、住んでいるところが東京であるから、東京・神奈川・埼玉の写真の枚数が多いのは必然として、その次が京都、そして長野である。比較的アクセスしやすい場所であることも勿論であるが、何か、惹きつけてやまない魅力があるに違いない。
しかし、全国津々浦々歩き回った僕であっても、恥ずかしながら、未だ、『これぞ!』といえる場所には巡りあわせていない。勿論、一旦行ったところなら、その魅力を伝えることは出来る。しかし、どこか表層的で、淡々としている感じは否めない。今回訪れた木崎湖も、人生を傾けるに至るまでの、熱烈な想いをぶつけた人がいたからこそ実現したものだ。その人がいなければ、きっと、ただ通り過ぎるだけのものだったのかもしれない。知ろうともしなかったのかもしれない。だからこそ、その人には心から感謝を申し上げたい。

まるで付喪神のように、思いをぶつけ、深く込められる場所。人生と魂を分けても守りたい、巡り会いたい場所。一生に1度、そんな場所に巡り合えるか否か。もし巡り会えたのなら、極上の幸せが待っているに違いない。



木崎湖 (Lake Kizaki) 安曇野スイス村 (Azumino Switzerland Village)
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2012/05/02

[Travel Writing] 東北桜紀行 - 岩手編 Vol.2

東北の桜、最終目的地は、昨年、世界遺産に登録された『平泉』へ。

中尊寺の春 - 一中尊寺の春 - 二

旧観自在王院​庭園の春毛越寺の春

朝からあまり天気は芳しくなく、ホテルから平泉に移動した時にポツポツ降ってきて、一時的にその降り方、時々風も強く吹いてきまして。しかし、終始そのような雨の天候ではなく、時折雲間からうっすらと陽の光が見えてきました。不安定なことには変わりありませんが。

平泉って、あまり桜のイメージはなかったんです。しかし、国道4号線(奥州街道)沿いに、桜並木が植えられている、ということをつい先日知ったため、どんな感じで咲いているんだろう… と意気揚々と行ってみたら。

ことごとく散っていた… orz

気を取り直して…
とは言うものの、枝垂桜など一部の桜はまだまだ見頃のものも多く、中尊寺の境内は高台のためか、登るにつれ、満開の桜(多少は桜吹雪であるものの)がお目見え。意外と境内を桜が彩っているのは初めて知りまして、やっぱり実際に行き、この目で確かめないとダメだな~、と思った瞬間でもあります。

しかし、ゴールデン・ウィーク中とは言え、この日はカレンダーでは平日。にも関わらず、中尊寺・毛越寺共に、境内を埋め尽くさんというほどの観光客でごった返していまして。やはり、昨年(2011年)の6月に世界遺産に認定されたのが大きいかもしれません。
ちなみに僕は平泉は2回目。その時も平日でしたが、まだ世界遺産に登録される前で、雪が降る真冬ということもあって、深閑とした空気が好きでした。特に、毛越寺内の大泉ヶ池は、真っ白な雪化粧。目を奪われてしまったのは言うまでもありません。
世界遺産という名目で訪れるなんて、皆現金だなぁ~、なんて思いつつも、僕もその目的は入っているわけですし(爆)。それでも、震災・原発事故で苦行に喘いでいる東北の人たちからすれば、それは、東北の復興に導くための、一条の光明になったのは事実ではないかと思います。


線路を挟んで東側に行き、伽羅之御所跡へ。しかしそこには標が立っているのみで、御所の跡は全く見当たらず…
その時、近所を散策中のお婆さんに出会い、「ここには伽羅之御所跡があるという御触れ付きだけど、ご覧の通り何も無いのよ」とおっしゃったのです。奥州合戦の折、劣勢に立たされた藤原泰衡は、北方に逃げるために平泉を放棄。邸宅や宝蔵に火を放ち、灰燼に帰してしまったそうです。
それから500年後、松尾芭蕉が訪れた時は、ここに壮麗な宮殿が建てられたとは思えないくらいの、一面の田園風景。そして今は宅地へ。そのお婆さんも、「世が世なら、一般庶民の私たちなど、こんなところには暮らせなかったはず…」とおっしゃっていました。

しかし、僕はそうは思わなかったのです。藤原三代が目指していたのは、現世での浄土世界。敵も味方も、生けるもの全て、極楽浄土の中で生きる世界を目指そう、というのが彼らの理念。お婆さんと話をしていると、元気よく子供たちが駆け寄ってきまして、それを見ると、たとえそこが『浄土』という仰々しい世界観でなくても、「普通だけれど、皆が穏やかで、平和に暮らせる世の中」であることが、もしかしたら藤原三代が目指していた、完成系なのかもしれません。
確かに、観光という上では、何かあった方が人として呼び込みやすいかもしれませんが、そうすることが、その場所を代々築き上げてきた人たちの理念に必ずしも沿っているとは言えない。見どころが何も無くても、築き上げてきた人たちの理念がそこに含まれているのであれば、それもそれでいいのかな、と思うのです。

平泉は、これからも何回か訪れる機会があるのでしょう。そのたびに、彼らの往年の夢や理想が垣間見えるのかもしれません。



中尊寺 (Chuson-ji) 毛越寺 (Motsu-ji)
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2012/05/01

[Travel Writing] 東北桜紀行 - 岩手編 Vol.1

急激に暖かくなった今年の春。冬の大寒波到来に続き、大雪が降ったため、急激な暖かさの影響で雪が勢いよく融け、地滑りによる被害が続出しているのだとか。
また、除雪作業によって脇にうず高く積まれた雪も、急激な暖かさによって溶解。しかし、シャーベット状になった雪が自重で押し固められ、まるで氷の塊のように山のようにそこかしこにある。北上線沿いの畑を見ると、そんな光景を目にしました。半袖でも大丈夫なくらいの陽気なのに、雪はまだ残っているなんて…

でも、その雪も、次第に融け、これから種まきの季節がやってくるのでしょう。季節はそうやって循環する。実りの秋を迎えることが出来るよう、見送りながら北上へ向かいました。

北上展勝地 - 一北上展勝地 - 二

横手と同じく、北上展勝地も急に桜が満開を迎え、ところどころではかなり散ってしまっているところも。それでも、穏やかな陽光の中、桜吹雪の展勝地を大勢の方が歩いていらっしゃいました。
ここは、美しい日本の歩きたくなる道500選のうちの1つでもあるそうです。北上駅のコンコースに、北上展勝地の写真パネルが掲載されていましたが、紅葉の季節もいいかもしれません。今回は、一面ピンク色に染まった道を歩きましたが、朱色に染まった道も、織りなす自然を堪能する愛好家からすれば、垂涎の的でしょう。^^

北上景勝地へは、歩きと渡し船の二通りがあります。歩きの場合は、珊瑚橋をぐるっと経由します。10分以上歩きます。渡し船の場合は、300円で5分ちょっとで到着します。水上から見える展勝地の桜や紅葉というのもいいかもしれません。


厳美渓の桜郭公だんご

一関へ南下し、厳美渓へ。ちょっと南下するだけでも、桜の様相はガラッと変わってしまっており、大部分が桜吹雪に。それでも何とか、桜に包まれた厳美渓を堪能することが出来ましたが… ^^;
渓流の流れを聞きながら、あたりを散策。桜だけではなく、水仙も見頃を迎えていました。
また、厳美渓の水源は色々なところからあるようで、渓谷の脇からも水が湧き出ているようです。それが岩々の窪みに溜まり、よく見ると、物凄い数のオタマジャクシが! さらによく耳を澄ませると、カエルの鳴き声がそこかしこに聞こえます。長閑な日本の原風景が、そこに広がっているようです。

そして厳美渓では、お馴染みの『空飛ぶ団子』ですね! 妙に人だかりが出来ていたので、一体何ぞ、と思ったら、丁度、郭公屋さんから団子がスルスルと縄を伝った籠に入って降りてくるところでした。これは面白い! 実際に始めてみました。厳美渓ならではの風物詩ですね。
団子の味は、ミタラシ・ゴマ・漉し餡。値段は400円とちょっと高めなものの、厳美渓ならではの渡し方と、お茶がついていますから、それはそれでOKかもしれません。^^

[Travel Writing] 東北桜紀行 - 秋田編

今年の東北の桜は全く読めませんでした。
4月下旬の発表では、当初の予定では、北東北(青森・秋田・岩手)の桜は、まだ蕾の状態だったはず。それが、GWに入るや否やの暖かい日の連続で、気温は一気に上昇。蕾だった桜も、一気に花を咲かせ、満開となったのです。

横手城の桜横手公園の桜

その分、桜吹雪も早く。これ程までに、桜の『儚さ』を感じた春もなかったでしょう。逆に言えば、厳冬の続いた冬の寒さを、無事に耐え忍んだが故のご褒美なのかもしれませんが…
だったらもうちょっと長く桜を楽しませてよ、というのが僕の本音だったりします。^^;

ツアーを組まない一人旅、というのは、変更が容易に利く、というのが醍醐味があります。東北の桜紀行 秋田編は、計画を立てた3月末~4月上旬は、予定通り横手城でした。しかし、寒波の影響で開花が遅れていること、4月末になっても、横手城が蕾のまま、という情報から、既にバスのチケットなどを手配していたにも関わらず、予定の変更を余儀なくされました。
幸い、秋田市の千秋公園が満開、という情報もあり、そちらに足を伸ばそうかな、と思っていた矢先のこと。これから5月を迎えようとする正にその時の情報をチェックすると、横手城は勿論、角館の武家屋敷も満開。究極の選択を迫られた瞬間でもありました。
しかしここは、当初の予定通りである、ということ、まだ見ぬ場所を散策したい、という衝動から、横手城を選んだ次第です。しかし、ちょっと心残りだったのは言うまでもなく… ^^;

横手市は、散策すると結構歴史的な街並みがそこかしこに見えるところでもあります。とりわけ、横手城天守から一望できる街並みだったり、学校の造りや雰囲気が、往年のそれを感じる時がままありました。市街を流れる横手川が、その一役を買っているのかもしれません。
歴史ある街並みは、歩いているだけでも知識欲を駆り立てます。今回は、横手城というスポットのみでしたが、じっくりと街歩きしたくなる、そんな雰囲気が醸し出ているところでもあります。